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理事 林 俊雄
最近日本を代表する企業の生産施設で、大きな事故が立て続けに起きた。
その原因はリストラによる人員削減という、人為的な要素を指摘する論調が多い。いたずらに経済性と効率性とを求め、技術やノウハウが継承されず、細かな監視の目が届かず管理が疎かになってしまった、というわけである。しかし、原因はそれだけではないように思う。
考えられる大きな要因は、
・ 設備過剰と不況とが相俟って積極的な設備投資を控えてきた事
・ 債務返済を優先し本来やらなければならない設備更新を遅らせてきた事
即ち設備投資をしなかった事も大きな原因の一つではないかと思う。
設備更新の目的は、ただ単に耐用年数を過ぎた機械装置や古くなった建物を刷新するだけではない。ハードを新しくするだけでなく、同時にそのハードを適正に制御するソフト(システム)も新しいものに変わる。
現代の製造産業の情報システムは、製造機械系だけでクローズして稼動しているのではない。資材の調達から出荷・在庫管理にいたる全体の生産を管理するシステム、そして経理などの事務処理系のシステム等が全て連動している。製造装置が機械化・自動化されると同時に、人間が担っていた業務もコンピューターに置き換わり省力化が図られている。
特に情報システムは、基軸システムだけでなくそれをサポートするいろいろな周辺システムをも含めて連動して変化している。むしろ最近では社外の情報システムが変わるために、ハード(設備機器)系のシステムを更新せざるを得なくなる状況の方が多い。
現在では、一昔前のようにモーターの耐用年数は何年という単なる部品の耐用年数ではなく、もっと短期間に生産のシステムが変化していることに注視するべきであろう。
このようなハード・ソフトを含めた統合化が進んだシステムでは、あらゆるパーツ間の同期を取り全体調和を図って更新してゆくことが必須になる。部分的に設備を更新しても、全体としての同期と調和とがとれていなければ、旧式の機械や無理をしている工程にしわ寄せが集中してしまい、この縊れた部分が事故への盲点になってしまう。
第二に、設備が新しくなることは「慣れ」と「不感症」の問題を解消する。
長年同じ設備を使っていると、慣れで気を抜けるところが見え管理が甘くなったり、不具合に不感症に陥り無理を承知で騙しだまし稼動させることが往々にして起きる。
しかし、新しいシステムになると人はやはり操作や動作に慎重になり無理はやらなくなるものである。人が関与する限り、この効果は非常に重要である。
三番目は、不要な「滞留物」や「放置物」の問題である。
生産の現場には、長い間に日頃気がつかないまま滞留あるいは残留した余分な放置物や無駄な物が結構多く蓄積されているものである。清掃を励行していても生産環境をよく観察すれば、意外とこのような不要な物は多く見つかる。そして、このような異物が、移動の障害になったり火災の燃え草になったりして大事故の原因となることは往々にしてある。
設備更新の付随的な効果は、その機会を利用して異物や不要物の整理・廃棄が出来る事である。不要物と言ってもモノだけではない。使わなくなったシステムなど“ソフトのゴミ”も長年使っていると沈殿するものである。設備の更新はこのような残留物、滞留物をも清掃するいい機会になる。
誰もが、清潔で快適な環境での労働を望んでいる。設備が新しくなれば、人心も一変する。これがまた設備更新の効果である。
生産性の向上が期待できないからといって、古い機械装置を無理やり使いこなし新しい設備への投資を控える時は、生産効率以外のこのような効用にも考慮すべきである。
インテルのグローブ会長は、「景気の波に関係なしに、新しい技術(ソフト、ハード)に対応するための設備投資は惜しまない」と明言しているが、彼は人心の一新、不要物の整理といった余分の効果にも期待するところがあるに違いない。
設備への投資を逡巡し遅らせたり中止したりすることは、いつかはその“つけ”を払わざるを得なくなり、手酷い結果を招く可能性があろう。
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